Nikon Imaging Center at Hokkaido university

超解像顕微鏡とは。

☆ニコンが開発・販売の超解像顕微鏡(N-SIM, N-STORM)のデモ機を、当センターでは平成24年度と26年度の2度にわたって設置し、どちらも大好評となりました。
このページはその際の案内用に作成したものですが、超解像顕微鏡の紹介として、当面はこちらに掲載いたします。そのため現在は機器はございませんし、平成26年度の設置の際の内容が基となっており、今後の更新やチェックはそれほど頻繁には行いませんため、記載時とはさまざまな状況が大きく変わっている可能性もありますことを、あらかじめご了承ください。
*最終更新: 2017/08/31


光学顕微鏡の限界、電子顕微鏡の限界…。

光学顕微鏡では、光が「波の性質」を持つことによる、約200nmという(光学的)分解能の限界があります。そのためこれ以上は、どれだけレンズをたくさん挿入しても、またはズームで拡大しても、詳細な構造を見ることはできません。

※ただし200nm以下の極めて小さい物体であっても、暗い中で明るく光っていれば見ることは可能です(遥か遠方の星も、夜空では見えることをイメージしてください)。といいますのも「分解能」は、「見ることができる最小の物体のサイズ」ではなく、「2つの物体を分けて見ることができる限界」です。そのため分子1個は数ナノ程度のサイズであっても、顕微鏡やカメラなど顕微鏡システムの性能が格段に上がる以前より「1分子イメージングで分子1個を観る!」ことができました。このためには、励起光が届く領域を大きく制限するために全反射蛍光光学系(TIRF)とすることが必須でした。
私が記す概略よりも、もっと詳細に分解能のことを知りたいならば、[Optical Microscopy Primer: Numerical Aperture and Resolution](Fig.3など)や、[Nikon: The Diffraction Barrier in Optical Microscopy]などをぜひご覧ください。どちらも英語ですが、分解能の定義や対物レンズのことなども詳細に記してあり、参考となるところが大きいです。

一方で各種の電子顕微鏡(SEM, TEMなど)を用いますと、上記の光学顕微鏡の分解能よりずっと詳細な構造の観察は可能ですが、真空下で電子線を照射するという観察方法の特性上、生きた細胞サンプルを用いることはできず、"ある瞬間を凍結した固定サンプルの観察"となってしまいます。そのため、生きている細胞内で起こる生物現象をリアルタイムに観察することはできませんでした。また電子顕微鏡で優れた画像を取得するには、サンプル作成や観察には熟練したテクニックを要するほど難しく、研究者が「ちょっと思いついたときに、簡単に」画像を取る手法とは言いにくいところです。
そのため近年になって各顕微鏡メーカーでは、"光の当て方"を工夫することで、更なる分解能で観察を行う「超解像顕微鏡」の開発を行っており、平成26年のノーベル化学賞の受賞もあって、非常に大きな注目を集めております。

ニコンの超解像顕微鏡1:N-SIMで120nmが観れる!

ニコンでは独自の「構造化照明」による観察法を開発し、これにより空間分解能を従来の光学顕微鏡の約2倍(約120nm)程度に向上させ、生細胞内の微細構造の可視化を実現した超解像顕微鏡システム「N-SIM」を発売しております。他の超解像観察法では更に分解能が高いものもございますが、このN-SIMは比較的高速で画像取得が可能で、光ダメージが弱いという特長からタイムラプス観察に向いており、更に蛍光色素を大きく選ぶ他の手法と比較すると、スタンダードなGreen,Red,Deep-Redの蛍光なら観察が可能(今回のデモ機の場合はこの3帯域で、搭載のレーザーに依ります)であるというのも、大きな長所です。
このN-SIMは販売開始から間もないうちに、雑誌「The Scientist」誌で2011年におけるトップイノベーションの第5位にランクインし、世界的に非常に注目が集まっている観察機器といえます。

ニコンの超解像顕微鏡2:N-STORMで20nmが観れる!

このN-SIMのデモ機は平成24年にも設置して大好評となりましたが、更に平成26年度の今回は「N-STORM」での観察も可能な台機をお借りすることができました。
通常の蛍光観察法では、「強い光の照射のため、視野内の全分子が同時に励起する」ことになります。そのため上記の光学的限界により、近隣する蛍光分子を"分けること"ができず、「見えているものは、楕円上の粒子なのか?2個の粒子が隣接して雪だるま状に見えているのか?」が識別できなく、分解能が制限されてしまいます。

N-STORMでは光学系として全反射蛍光光学系(TIRF)を基本としており、そもそもガラス基板のすぐ上にしか励起光が届きません。そして、励起光が当たっても、確率的に蛍光分子がなかなか蛍光を発しない状態としておき、その上で非常に弱い光を照射します。このため蛍光を発する分子はごく低確率となりますので、分子1個に由来する蛍光画像が取得できます。カメラで取得した画像では、こうして分子1個に基づく蛍光は広がりがある円として記録され、こちらの画像演算処理によって円の中心位置が算出できます。このようにして非常に多くの画像を取得することにより、それぞれの蛍光分子の位置を正確に把握した高分解能の画像を再構築する手法です。

*光る分子の割合が非常に小さいので、隣接する2分子が同時に蛍光を発する可能性は限りなく0に近く、そのため一般の蛍光顕微鏡の画像では数個の分子の蛍光が重なり合って分けられなかったものも、分離・識別が可能となるわけです。また全反射系でありますため、XY位置が同じでZ位置のみが異なる可能性も排除できます。例としては―高層ビルで「Mission:スグニ204号室ニ行ケ!」とだけ言われても、各階に204号室があるのなら1階なのか32階なのか判別できないことでしょうか。この例を用いて説明すると、全反射光学系では1階のみが対象となるため、Z位置は最初から特定されています(すべて同じ高さです)。

ただし以上で記すSTORMの観察方法の特性から推測されますように、光学系はTIRFとする必要があるため、ガラス基板のすぐ上のみしか観察ができませんし、1枚の画像には非常に小さい割合の分子の位置しか反映されてない=数千枚の画像取得が必要となりますので、すべての分子の位置を網羅するためには1枚の画像構築に数分程度の時間を要します。更に(蛍光)分子が光るかどうかは、分子構造に依存しておりますが、これは平衡状態とその最適化に左右されます。実際に蛍光分子の大部分を光りにくくするためには、還元剤を投与する必要がありますため、生きた試料の観察はできません。このため現状では、まだ発展途中の手法で観察にはやや制約があることは否めません。しかし従来の十分の一、20nmの分解能という他の追随を許さない高分解能が達成できます(このN-STORMの原理が、平成26年のノーベル化学賞の対象となりました)。そのため、電子顕微鏡のユーザーの方でも、満足のゆく出来映えの画像が取得できると思われます。日常的に電子顕微鏡用のサンプルを作成して観察を行っているような方ですと、STORM用サンプルの作成は容易です。
もちろん試薬やカメラ、あるいはソフトウエアの開発で、現状でのこうした短所も飛躍的に改善される可能性が高いですので、むしろ今後に期待してほしいところです。当初このページを作成した平成24年・26年と比較しても、平成29年の時点で大きく改善済みの点も多々あります。

*観察方法や詳細は、上記のリンク先や、[Nikon: Single-Molecule Super-Resolution Imaging](こちらは英語です)などを、ぜひ参考としてくださればと思います。

ニコンの超解像顕微鏡の機器詳細と特長


今回お借りするデモ機の主要スペック

  • 画像取得モード: 3D-SIM(XYZ超解像), TIRF-SIM(全反射での超解像観察) / STORM, 3D-STORM
  • N-SIM用の搭載レーザー: 488nm, 561nm, 640nmの3種類
  • N-STORM用の搭載レーザー: 405nm(刺激用), 488nm, 561nm, 647nm
  • 顕微鏡: ニコンの倒立顕微鏡 Nikon:Ti-E (パーフェクトフォーカスシステム内蔵)
  • 対物レンズ: 60倍レンズ(水浸; NA:1.27), 全反射用100倍レンズ(油浸; NA:1.49)
  • CCDカメラ: Andor社 EM-CCDカメラ iXon-Ultra

超解像顕微鏡1:N-SIMの特長

  • 下記のSTORMもそうですが、他の超解像観察法では、"非常に蛍光試薬を選ぶ、この色素でないと観れない!"というような傾向がありますが、N-SIMでは搭載レーザー(488nm,561nm,640nm)で励起可能な一般的な蛍光色素/蛍光タンパク質なら観察ができます。
  • タイムラプス/Z-スキャン観察が、通常の蛍光観察と同様に可能。当センターの共焦点顕微鏡(Station-1)をご利用の方は、おそらくすぐに操作可能です。

超解像顕微鏡2:N-STORMの特長

  • 上記のように、光る状態を制御できるような特定の蛍光色素(*平成26年ではAlexa647が最適。その他の数種)での標識が必要となり、還元剤を添加するため生きた細胞の観察はできないものの、分解能:20nmは、蛍光観察がベースのシステムでは最高級です。
  • ただし、「この位置に、蛍光分子は存在しているのか?それとも存在していないのか?」を、ナノメートル単位の精度で極めて詳細に把握することが、STORMでの唯一かつ最大の観察目的となります。位置以外のデーター(=輝度)はTrueとFalseの2つのみのような感じですので―例えば、「この条件で、どのくらいの強さの蛍光を発しているか?」や、「条件を変えたときに、2種類の蛍光強度はどのくらい変わるか?」などといったような、蛍光強度の取得や比較には明らかに向いていないため、そうしたデーターが必要な場合は、通常の蛍光顕微鏡での観察が望ましいところです。
  • 今回のデモ機には、405, 488, 561, 647nmの4本のレーザーが搭載されており、STORM観察で専ら利用される蛍光色素以外でも、観察を試してみることも可能です(ただし405nmのレーザーはSTORMでの刺激用のため、DAPIやHoechstなどは用いることはできません)。

N-SIMによる超解像イメージと落射蛍光イメージとの比較

*画像例1~5では画像をクリックすると拡大画像が、画像6ではN-SIMでの超解像観察による動画が表示されます。
またN-SIMで作成される超解像画像の解像度は1024×1024ですが、Webサイトでの表示上、拡大表示でも512×512としております。
*もし上下の画像が重なっていれば、[F5]キーを押すなどにより、再読み込みを行ってください。

例1. HeLa細胞のミトコンドリア

試薬による蛍光染色で、微細構造を可視化したCOS7細胞のタイムラプス観察
(約10秒ごとに画像取得し、5分間の観察)